<完成見学会は終了しました>
近隣の方で工事中の経緯をご存知の方はこの物件がリノベーションだということは周知でらっしゃいますが、今回は外装をやりかえたことから、まるで新築みたい、とおっしゃっていただける出来上がりとなりました。法人様の事務所ということもあって、カンパニーコンセプトにそった5要素に、五角形のシルエットを重ねる、という外観から企業理念をアピールすることもあって、ひときわ目を引く設計になりました。
もちろん、通常の形状と異なるので、施工としてもどう実現するかに悩みましたが、構造、雨仕舞い、耐久性、施工性からの最適解を見つけ出すことができ、こうして完成に至りました。
住宅もそうではあるんですが、店舗やこうした法人様の建築だと、外観に如実にそのコンセプトや性格があらわれてしまいます。デザイナーがクリエイトしたものをお仕着せするのではなく、そもそものお客様がお持ちで、されに実現していきたい想いを汲み取り、引き出しながら、それをコンセプトに外観に落とし込んでいく、そして、実現可能な設計に落とし込んでいく、という過程をへています。
新築だけでなく、こうした築年数不明のリノベーションでも快適性は担保するために、断熱性能は落とすことなく、気密性も確保しました。UA値は0.34、C値は0.5でした。新築のようにはいきませんが、そんなに大きくない平屋ということもあって、6畳用のエアコン一台ずつで快適にすごしていただくような温熱計算はしております。
冬の暖房は、なるべく気流を感じないようにするために、古民家でも床下エアコンで暖房するように苦心しています。今回は既存が布基礎で床下は土、湿気もシロアリも上がってきてたことから、防蟻防湿コンクリを防蟻断熱材と一体打ちして、床下エアコンが効くように仕上げました。もちろんリーズナブルに6畳用のエアコンです。他にも熱源にできる暖房機はありますが、家庭用の壁掛けエアコンを使うのが、イニシャルコストもランニングコストも安い、ということから選ばせてもらいました。
普通、冬にエアコンで暖房というと、気流感があって乾燥するとか、寒い気がするとか、そういうイメージや体験をされているかと思います。でもそれは風を肌に当ててしまうからそうなるんであって、寒い冬には特にそう感じてしまいます。これが夏だったら扇風機効果で、涼しくて、すこしでも乾燥してくれる、と快適な方向にいくんではあるのですが。
寒い冬に気流感のないようにするために模索してきた結果、床下エアコン、という選択をするのですが、写真でも見えてる床の開口部分から温風を床下に送り込みます。しっかりと送り込むためにエアコンまわりに隙間ができないように苦心するのですが、窓辺に座れるベンチの下になんかあるようにしか見えないこの写真からは、その苦労は窺えませんよね。これに目隠しルーバーを設置するというオプションもありますが、それなりの金額にはなります。
三良坂のように、冬は毎日のように氷点下、午前中は霧に町が沈んで太陽の光が見えないようなだと、冬の快適さをどう確保していくかが設計の肝になります。空調計画という設計の中にはどういう流れで熱を伝えていくか、というのもありますが、ここだとどのエアコンの機種にするか、ということも暖房負荷を計算してから選定していきます。安いからといって6畳用のエアコンを選んだのではなく、必要な暖房能力はこれくらいだから、この容量が良い、と選んでいきます。そして、冬の暖房で忘れがちなのが、「低温時暖房能力」という項目がカタログに小さく書いてあるのですが、外気温が2度だったらこれくらい、外気温が-15度だったらこれくらい、と表記していて、これを元に計算していきます。普通に書いてあるのは外気温が7度だったら、という全メーカー統一基準での暖房能力です。三良坂の冬はそんなもんじゃないですよね。もしも「冬はエアコンが効かないというか、動かんし」という経験をされてるなら、低温時暖房能力が足りない、であるとか、寒冷地用ではないから室外機が動いていない、というのが理由ではないかと思います。
冬対策は空調計画はもちろんのこと、床の素材も寒さを感じにくくするための選定をしています。
今回は欧州赤松の無垢フローリングです。三次よりもっと寒い地域で極寒に耐えながら少しずつ成長した、目の細かく詰まった木目は、温かい地域でホワ〜ンと育ったパインとは肌触りが違います。もちろん、パインも悪いものではないんですけど、求めていくところが異なるというだけです。
床下エアコンからの暖気で暖められて、ほんのりと暖かく、でも床暖房のようにきついこともなく、冬でも素足で歩きたくなる心地よさを設計しています。すりすりと足で触るのが気持ち良いです。ここで、すきま風なんかがあると素足なんてもってのほか、ぶ厚い靴下とモコモコのスリッパで武装しないと生き残ることができませんが、こうして断熱・気密・暖房・素材感を一気通貫で設計・選定していくことで快適さを実現していきます。
ちなみに、三次は盆地ですから、夏も暑いですよね。とくに最近は酷暑が続き、いかに夏をしのぐかが大事になってきます。その昔、兼好法師が徒然草で「家のつくりようは夏をもって旨とすべし、、、住まいは夏の暑さ対策を基本に作ることが基本である」と記したのは、現代にも通じるものがあります。というかそのまんまですね。屋根断熱をしっかりして、一番暑くなる屋根からの熱を遮断して、さらに冷房効かし、除湿もやりつづけることが大事になります。
冷房も暖房と同じで、その建物の必要冷房負荷があり、それに応じた冷房機を選定していきます。そうして初めて冷房を過不足なく効かすことができます。冷房能力が足りないのは論外ですが、必要以上に大きすぎると、今度はすぐに「よし冷えたな」とエアコンが判断して止まります。室温だけを考えるとそれでいいのですが、問題は湿気です。エアコンが止まると、またすぐに室内の湿度が上がります。目安ですが、一時間で1.5Lの除湿をずっと繰り返していくことで夏のベタベタした外の湿気から、カラッとした室内空間を実現することができます。
そのために必要なのが、また、空調計画になりますが、今回はリーズナブルに納めるために小屋裏エアコンとして、写真に小さく写ってる天井近くの丸いグリルから冷気が落ちるようになっています。ひとつ前の床下エアコンの写真の緑のドアの近くにも天井に丸いグリルがありますが、ここからも冷気が落ちます。これだけでなく、設計の肝になるのはエアコンを止めないようにするリターンエアの取り方です。この建物の一番暑くなるところからエアコンに吸わせるようにダクトで道をつくり、ファンで送風しています。写真だと正面の天井近くにある四角いグリルです。室内の暖かい空気は上に溜まりますので、それを枢要にしています。ダクトに空気を流すことに抵抗のある方もありますが、もちろんその対策として、ダクトの掃除、さらに将来的には交換がしやすいように作業空間も大きく確保しています。
とまあ、性能のことは私に投げっぱなしにしてくださればよくって、お客様としてはどんな色にしようかな、とか、今回だと天井はMDF合板を貼ったガレージハウスっぽい武骨なインダストリーな感じにしたいとか、間接照明がタテに光るシャワールームとブラックのオーバーヘッドレインシャワーがいいな、とか、そういうことを楽しみながら選んでいただきました。室内ドアも、ひとつひとつに意味のあるこだわりがあって、楽しい打ち合わせでした。ひとつまえの写真で、クロス張りの目立たないドアがあるのがわかるでしょうか? ここは隠しても隠れるわけでもないのですが、隠し扉のようにしたい、ということでしたし、ブラックにしたり、グリーンにしたり、壁もレンガ積みだったり、合板だったり、ニュアンスカラーのグレイッシュにしてみたり、いろいろ遊ぶようにされていましたが、それも事務所だからこそ、でもあります。
住宅だと、色調は飽きのこない、落ち着いた、くつろぐための空間をつくるための大切な要素になってきますので、どちらかというと無難な、ビビットではない、10年経ってようやくしみじみと「いいなぁ、、、」と思っていただけるようにしています。パッと見では伝わらなくて、わかりにくいのが、住宅の難しいところです。それでも、いろんな事例を見ながら家づくりの勉強をされているお客様は、そういうことをわかっていただける方も多くなってきましたので、そういう面ではやりやすくなったと思います。
今回はトイレもなかなか苦労した点でして、そんなに広くもない面積で、いかに膨大な収納空間を確保するか、手洗いもほしいし。見ていただきたいのが、紙巻器が棚板と一体になってるんです。これもどうしたものかと悩んで悩んで悩みました。
こうした、いろんな思いや工夫が詰まったこの建物の完成見学会を完全予約制でおこないます。以下のフォームから必要事項を入力してお申し込みください。お客様の大切な建物ですので、今回から有償とさせていただき、本当にさくら建築の事例が見たい、という方のみに限定させていただきます。
・日時 令和6年4月30日〜5月2日のお好きな時間
・場所 三良坂町内
・種別 リノベ完成見学会
・種類 完全予約制
・料金 1世帯3,000円
<完成見学会は終了しました>
今回は限られたご予算の中で快適さを担保するための選定をしていきましたが、他にもいろんな種類の冷暖房器具を選ぶことはできます。換気システム、空気清浄機のトルネックスや輻射熱、ご予算と暮らし方に応じた多種多様の中から選定していくことが設計ですので、これが使いたい〜、と探して指定するよりも、こういう暮らしをこの予算でやりたい、ということを先に考えていただくのが良いかと思います。